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ストローベイル・ハウスが「新しい物語」をつくる ~建築家大岩剛一氏独占インタビュー取材

2009年9月 3日

2009年8月『スローなカフェのつくりかた~暮らしをかえる、世界がかわる~』(監修:吉岡淳)という本が自然食通信社から出版されました。その著者の一人で、成安造形大学造形学部教授でもいらっしゃる一級建築士の大岩剛一先生のインタビュー取材を7月に行いました(インタビュー場所:国分寺「カフェスロー」)。
大岩先生は「スローデザイン研究会」の代表として、また環境文化NGO「ナマケモノ倶楽部」のメンバーとして、ストローベイル・ハウスやスロー・カフェの国内での普及活動と、「スロー」をキーワードにした持続可能な住環境の研究をなさっている方です。アミタが運営している「森林ノ牧場 丹後」内にある店舗兼ミルクプラント「森林ノ工房」は、アミタのストローベイル・ハウス第1号として、大岩先生にデザインのプロデュースをお願いした建物です。(※「森林ノ牧場 那須」にはストローベイル・ハウス第2号として「蔵」を建設)。今回は貴重なお時間を頂き、ストローベイル・ハウスとはどのようなものか?そして新しく出版された本の内容などについても直接お話を伺いました。

■ストローベイル・ハウスとの出会いについてお聞かせください。

大岩剛一先生

ストローベイルというのは圧縮したワラのブロックのことなんですが、このブロックを積み上げて固定し、土を塗って仕上げた、厚さ50cmぐらいの壁を持つ建築様式です。ぼくがストローベイル・ハウスに出会ったのは、20世紀最後の年である2000年。オーストラリアに旅をした時のことです。ちょうどこの年はニューヨークで起こった9.11同時多発テロの1年前。先の見えない、閉塞した時代の始まりでした。そんな折に、家族や恋人、友人たちと一緒にワラを積み、土を塗って、手間暇をかけて楽しそうにつくる環境循環型の建築に出会いました。

ストローベイル・ハウスは乾燥地帯である北米に始まり、今やオーストラリアからヨーロッパ、ロシアまで、世界的な広がりを見せています。日本では見慣れない建築ですが、長い稲作の歴史を持つ日本人にとって、米づくりの副産物である稲ワラは身近に活用されてきた優れた循環型の素材です。ワラの生活文化は高度成長のさ中に途絶えましたが、ワラという素材を今日の日本人の暮らしに取り戻すことには意味があります。厳しい日本の気候風土に適応するための技術的な改良など課題は多いのですが、豊かさの意味をはき違えてきた私たちの暮らしをスローダウンさせるためにも、日本のストローベイル・ハウスの新しい可能性を広げていく必要を感じています。

■ストローベイル・ハウスの性能にはどのような特徴があるのでしょうか?

ストローベイルハウス作り

性能面でいうと、高い断熱性と蓄熱性、遮音性、調湿性です。まず断熱性ですが、これまでに設計した個人住宅の場合、冬は部屋の奥まで射し込んだ昼間の太陽の熱が蓄熱されて、日が沈んだ後もしばらくは薪ストーブを焚く必要がないくらい暖かいし、夏の暑さを避けようと室内に入った時のひんやりした感じは、まるで古い茅葺き農家の中にでもいるようです。調湿性というのは、例えば室内の湿度が高いと壁が水分を吸い取ってくれて、逆に室内が乾燥すると水分を吐き出してくれる性質なんですが、これは身体にも良く、コンクリートを中心とした現代の建築にはない優れた特徴と言えます。冬暖かく、夏は涼しいストローベイル・ハウスは、いわば壁全体が呼吸をしている温熱環境調節装置なんですね。

■ワラの魅力とはなんでしょうか?

ストローベイルハウス・ワラ

『三匹の子豚』という寓話の中で、狼によって最初にひと吹きで家を壊されるのが「ワラの家」でした。そして最も頑丈だったのが「レンガの家」。このレンガの家の方は、戦後の経済成長の主役であるコンクリート神話に重なります。最も強い「コンクリート」と最も弱い「ワラ」というイメージは、そのまま暮らしの豊かさの度合いを測る尺度として日本人の間に定着しました。もっと強く、もっと速く、もっと広く、そしてもっと便利に。今日の日本の住宅の豊かさを測るものさしになっていますね。

今日の家づくりはもっぱら建築家や建設業者などの専門家の仕事です。建て主は専門家にまかせっきり。家を建てたい人は専門家にイメージを伝え、お金さえ払えば住宅という商品を手に入れることができます。また家づくりでは量産品が主流、カタログから製品を選んで組み合わせることがデザインだと思っている人も増えています。これに対してストローベイル・ハウスでは、建材である稲藁は初秋に収穫し、ゆっくり乾燥させる。人間の都合に合わせるのではなく、大自然のリズムにこちらが合わせていくわけです。次に、家が近くの田んぼや森、竹やぶや水辺ともう一度つながりを取り戻せる。そして建材のほとんどが最後は大地に還っていく。建設工事には専門家や職人さんだけでなく、住み手はもちろん、大人も子供も参加することができる。いろんな思いをもってやって来た人たちと一緒にワラのブロックを積み、土をこねて塗る。そこには、これまでの効率的なマイホームづくりには見られない、手間暇をかけた「巣づくり」に向かうスタンスが感じられます。
ワラのメッセージとは、私たちがこの間追い求めてきた物質的な上昇志向の豊かさではなく、滅び、再生し、循環していくものの「強さと豊かさ」のことです。これからの家づくりには、私たちが頭と体の芯まで染まってきた近代の神話を逆転させる、新たな住の物語が必要です。「ワラの家」とは、失われたつながりを取り戻すための建築のこと。人と人、人と自然、人と地域の間に血の通ったつながりを取り戻すのにぴったりの建築なんです。

■大岩先生とアミタの関わりは?
 
ストローベイルハウス作り2007年にアミタさんが「森林ノ牧場」を京都府京丹後市にオープンさせる話が決まった際、牧場のすぐ近くに、牛乳などの乳製品を販売する店舗のあるミルクプラントをストローベイルで建てたい、というお話をうかがいました。この話のきっかけを作ってくれたのは、友人でもある日大教授の糸長浩司さんです。アミタさんの要望では12月中には完成させたいと。ですからストローベイル積みのワークショップは冬に行ったんですが、本当に寒かった。吹雪の日もありました。本来なら冬場にワークショップは行わないんですが(笑)。しかしあの厳しい寒さの中、若い社員の人たちが率先して、しかも生き生きと実に楽しそうに作業されているのを見て、面白い会社だなと思いました。
素材探しから始めて稲刈り、乾燥、さらにワラのブロックを一つずつ人間の手で積んで、竹串を打ち込み、ワラ縄で縛って建設していくという方法は、工業化の進んだ経済効率最優先の建築業界ではとんでもない話です。しかしアミタさんは、非効率的なつながりの中でしか本来のつながりを取り戻せないという点をしっかり心得ていて、その枠組の中で企業として最大限の効率化を図る姿勢を貫いている会社だと思いました。

■8月に新しく本を出版されましたが、どんな内容になっているのでしょうか?

大岩剛一先生

タイトルは『スローなカフェのつくりかた~暮らしをかえる、世界がかわる~』(自然食通信社)。東京の国分寺にある「カフェスロー」の経営者、吉岡淳さんが監修し、ノンフィクション作家の島村菜津さんが帯の推薦文を書いてくれています。ぼくはその本の中の「スロー・カフェはスロー・デザイン」というコーナーで書いていますが、今日インタビューを行っている「カフェスロー」も、アミタさんの「森林ノ工房」と一緒にこのコーナーでスロー・カフェとして紹介しています。

本全体の構成としては、スロー・カフェを人と人、人と自然、人と地域社会をつなぎ直すためのコミュニティの拠点として位置づけ、文化人類学者の辻信一さん、ウィンドファーム代表の中村隆市さんを始め、スロー・ムーブメントに関わる人たちが、地球の未来へつながる新しい価値観とライフスタイルを提案する内容になっています。スロー・カフェが多様なつながりを生む場所として、コミュニティをめぐる新たな物語のきっかけになればと思っています。また日本全国にある厳選されたスロー・カフェのガイドも掲載されていて、情報量満載の内容になっているので、ぜひ手に取ってみてください。

限られた時間ではありましたが、分かりやすくていねいにお話頂き、ストローベイルについての理解を深めることができた充実したインタビューでした。森林ノ牧場にお越しの際は、牛との触れ合いはもちろんですが、社員や一般参加者の皆様他、多くの方々の手で完成させたストローベイル・ハウスにもぜひ注目して頂ければと思います。
アミタはこれからも、様々な人とのつながりや、そこから広がる新しい出会いを大切にして事業活動を行っていきたいと思います。

(取材・構成 カンパニーデザイン室 松平 雄一郎)

*新刊『スローなカフェのつくりかた~暮らしをかえる、世界がかわる~』詳細はこちら
http://yukkurido.blog75.fc2.com/blog-entry-46.html
*新刊『スローなカフェのつくりかた~暮らしをかえる、世界がかわる~』購入はこちら
http://www.yukkurido.com/02_kounyu/index.html
*ストローベイルでつくった「森林ノ工房」詳細はこちらから
http://www.shinrinno.jp/contents/farm/farm-tango04.html

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